BONUS

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=q6oiEeZYNCg

現在のダンスの環境を考える
ジャーナリズム
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (4)
砂連尾理さんインタビュー
トヨタコレオグラフィーアワードを終えて

── 今回、砂連尾さんはゲスト審査員としてトヨタコレオグラフィーアワードに参加しました。まず、全体的な部分から、今回のアワードの感想を教えて下さい。

砂連尾 面白い面々が選出されていて期待値を高く設定しすぎていたせいもあるのでしょうか、正直なところで言うと、全体的に、自分が期待していたものにはもうひとつ届かなかったと思いました。今回、出演する各アーティストの動画を見て予習をしながら、勝手に期待を抱いていたんですが、僕が推した捩子ぴじんさんにしても、アワードを受賞した川村美紀子さんなども送られてきていた資料映像やYouTubeにアップされている動画と比べてもアワード用に「まとめて」作っていた印象を受けました。川村さんなんかは小さなスペースでやっているようなハチャメチャなことをしてくれるのではないか? 捩子くんは、東京での作品制作にこだわらず、別府や韓国等いろいろな場所を移動しながら作品を作ってきているので、新しい見方を提示してくれるのではないか? contact Gonzo(塚原悠也)も、ステージ上だけではない部分でも仕掛けてくるんじゃないか……。そういった期待からすれば、システマティックなルールの中での上演に収まり、こんなところがあったのかという驚きや発見は少し足りなかったように感じました。

── アワードを意識するあまり、普段は自由なコレオグラファーの活動が小さくまとまったものになってしまった。

砂連尾 どうなのでしょう? ただ、自分自身がコンテンポラリーダンスに期待しているのは、もっとわけがわからないことや、既存の価値やシステムには当てはまらないダンスで、既存の言葉では説明できないような新しい体感を見たかったですね。

── 個々のアーティストについての砂連尾さんの視点については、頂いた選評に詳しく書かれています。この中でも印象的なのが、捩子さんに対する「その先を少しでも良いから提示して欲しかった」と、木村玲奈さんに対する「ダンスに対し嘘をつく勇気を持っていいのではないか」というコメントです。

砂連尾 捩子くん、木村さんに共通しますが、ダンスに対して少し誠実すぎるように感じたんです。嘘をつく勇気は、問題提起を意識的に行い、なにか現状を変える責任を引き受けることに繋がるのではないでしょうか。

── お話を伺っている中で、砂連尾さんは「システム」という言葉を使っています。砂連尾さんがダンスを評価する上で、どうして「システム」に対する眼差しを重要と考えているのでしょうか?

砂連尾 僕は、「システムを変えられないんじゃないか」という諦念が、今の時代の空気を生んでいるのではないかと考えており、そこには危機感を感じています。その諦念に対する応答、抵抗をダンスからもしていくべきだと考えているんです。例えば、福島では、システムの要請にしたがって原発等を受け入れた結果、避難しなきゃならない生活を送っている人たちがいる。これ以上、そういった事態を生み出さないために、どのようにして自分たちの声を上げていくのか。それは、デモに行くことだけではないし、いわゆる政治行動だけではなく、一人一人が日々の暮らしの中から生き方を見つめ直した先に何か見つけていけるのではないかと思っています。そしてそれは、それぞれが太い幹を持った巨木のような強い存在を目指すのではなく、雑草が弱々しく生い茂りながら支えあうシステム、したたかさをコンテンポラリーダンスの中に見出したいと思っているんです。そういう意味で、捩子くんの表現が優れていると感じました。

── そのような砂連尾さんの視点について、他の審査員の皆さんと語り合う時間はあったのでしょうか?

砂連尾 ほとんどなかったですね。帰りの新幹線が一緒だったので、横堀さんとはこの話をしましたが、他の審査員とは語り合う時間があまりありませんでした。きちんと議論をして、他の人がどのような視点で見ていたかということをゆっくりと聞きたかったですね。きっと、審査員お一人お一人にはそれぞれの視点、哲学があるはずですから。

── では、審査会の中では多数決で決まっていった?

砂連尾 結果的にはそのような形でした。それぞれ1人5分から10分ほどの持ち時間で話しながら、多少の変化は生まれているかもしれませんが、深く視点を共有し、問題意識を議論するという時間はありませんでしたね。

── 今回、選評を読む中で、砂連尾さん個人が強く持っている問題意識を参照しながら評価をするという姿勢が見えてきました。しかし、各アーティストとも、それぞれが持つ問題意識に向き合って作品を創作を行っています。砂連尾さんと出演したアーティスト、砂連尾さんと他の審査員との問題意識のズレについては、どのように考えられますか?

砂連尾 今回は、賞を与えなければいけないということで、僕自身は各作品の中から自分の問題意識を基準に審査し、そこに合致するものを支持するというやり方でした。しかし、僕自身は自分の審査基準に固執するというよりは、僕とは全く違う問題意識の声を、聞いてみたいと思っています。むしろ、自分とは違う視点に目を向け、異なる意見に耳を傾けていくことが必要ではないでしょうか。6作品を見る上で、事前に予習しながら考えたことは、順位付けして見方を狭めていくことではなく、それぞれの作品の中から様々な可能性を見出し、それをどのように広げていけるのかを考えていきたいと思ったのです。

観客もまた、順位付けを見るのではなく、「私にとってはこの作品がいい」という感覚を踏まえて、自分の価値基準をクリアにすると良いのではないかとおもいます。自分にとっての価値基準がはっきりした時にはじめて、他のダンスを推す、異なる意見との対話が可能になるんだと思います。今は、そういった価値基準の多様性を認め合う自由な精神こそが重要だと考えています。

ジャーナリズム
田中真実さんと仙台で考える、障害者と共生するダンス公演のこと ── すんぷちょ(西海石みかさ)『ひゃくねんモンスター』をめぐって + 付録:STスポットの小川智紀さんに『ひゃくねんモンスター』について話を聞いた。
ジャーナリズム
文化生態観察・大澤寅雄さんとの対話
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (6)
ジャーナリズム
田中真実さんと考える、教育現場とダンスの接点でいま起きていること
ジャーナリズム
吉澤弥生さんに聞く[改訂版]
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (5)
ジャーナリズム
砂連尾理さんインタビュー
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (4)
ジャーナリズム
唐津絵理さんインタビュー
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (3)
ジャーナリズム
「トヨタコレオグラフィーアワード2014」選評募集プロジェクト
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (2)
ジャーナリズム
コンテンポラリーダンスの「機能低下」を乗り越えるために
トヨタコレオグラフィーアワードの可能性 (1)