2015/08/24
第4回連結クリエイションは「テクノロジー×ダンス×X(社会的課題)」をテーマに展開していきます。
今回はこのテーマの下、3組のプロジェクトと一般の方が参加できるプログラムを用意します。最終的に、年末年始にイベントを開催いたします。
主たるプロジェクト
- 砂連尾理さん(近年の活動をめぐって)
- 手塚夏子さん(とくに「(プライベート)トレース」をめぐって)
- ロイ・フラー再現プロジェクト
一般参加プログラム
ワークショップ/レクチャー/コンテスト
(詳細が決まり次第、お伝えいたします)
BONUSはサイトをスタートして7月で三年目に入りました。
今年度のテーマは、「テクノロジー×ダンス×X(社会的課題)」です。第1回、第2回の連結クリエイションでは、ダンスの歴史を掘り返すテーマを設定しました。これはこれで継続していきたいのですが(その意味で、第1回、第2回の活動もまだ継続しているつもりでおり、今後も多くの人たちが二つのテーマでダンスを作っていってほしいと望んでいます)、第3回で「障害(者)とダンス」をテーマにした際に、砂連尾理さんが、熊谷晋一郎さんとYCAMとで行った活動があり、それが今回、このようなテーマを考える大きな発端となりました。
熊谷さんは『リハビリの夜』で有名な東京大学大学院の教員で、小児科医、また脳性麻痺の当事者です。砂連尾さんは熊谷さんとの身体性の違いを割り下げるのに、YCAMのRAMというツールを活用しました。
この日のこのパフォーマンスは観客の多くから「絶賛」に近い評価をもらいました。私も、ここで行われている身体動作を「ダンス」と呼ぶことにはためらいがありつつも、このような取り組みが照らす未来に新鮮な「ダンス」の将来像が垣間見える、とそんな気がしたのでした。
ところで、50年くらい前に、土方巽は不具の身体性を見つめることで、舞踏を生み出しました。私たちの時代の感性からすれば、不具の身体とは単なる(他者の、他者性の)イメージではなく、共に生きる隣人の所有物あるいはいつか自分も所有することになるものとして受け止めるべき対象でしょう。そうしたリアルな出会いを可能にし、その出会いからダンスを引き出してゆく、そうした機運が、いまはあります。熊谷さんが唱えていらっしゃる「当事者研究」はその一つでしょうし、YCAMのRAMなどの開発もまたその一つです。
ぼくたちは身体をかつてよりももっと真摯に捉える時代に生きています。「ダンス」の既存のイメージに振り回されずに、やや大げさに言えば「人類とは何だろう」などという問いを小脇に抱えながら、またモバイルなテクノロジーを武器にしながら、自分の身体、隣人の身体へと探究心を傾けてゆく。「テクノロジー×ダンス×X(社会的課題)」とは、既存の「ダンス」のイメージから自由になるために、また身体への探究心を羽ばたかせるために、いまや不可欠な諸要素にアクセスし、そこから新しい知恵や知識を得ることで、今日のリアリティを有したダンスを生みための迂回路=近道であり、そこをみなさんと一緒に潜ってみるというのが、今年度BONUSが実現してゆきたいと念じている活動なのです。
今年度も、継続して砂連尾さんに参加してもらいます。特別養護老人ホームの被介護者と踊り(『とつとつダンス』)、東日本大震災の被災地に取材し(『猿とモルターレ』)、脳性麻痺当事者の熊谷晋一郎さんとYCAM製作のRAMを介して実験的な対話を試みる(今年一月のBONUS第三回超連結クリエイションにて)。今回は、こんな多角的な活動を展開している砂連尾さんの取り組みにフォーカスし、砂連尾さんが見据えている「テクノロジー×ダンス×X(社会的課題)」の姿をあきらかにしてみようと思っています。
手塚さんには、プライベートトレースに今一度、取り組んでもらうお願いをしました。ちょうど10年前、2006年に「表層から見た深層」という副題の「私的解剖実験-4」(「私的解剖実験」は、手塚さんが一貫して自分の作品・上演に与えてきた名称)で、手塚夏子さんが山縣太一らのパフォーマーとともに取り組んだことを発端としています。ちなみに、私はこんなことを当時書いてます。自分や家族の動作を録画し、1/2倍速にして、その再生動画を振付とするこの試みは、その過度な緻密さから「トレース」という呼び名を付けられています。驚いたのは、ライブで、肉眼で見たパフォーマーの動作が、まるで録画された映像のように見えたことです。ぼくはその当時、「そこから一体何が生まれるのかはいまだまったくの未知数だ」と書きました。「未知数」であるのは、いまでも同じで、10年たっても、その可能性は充分に探求し尽くされずに、開かれたままです。
この試みについて、夫の身体動作をトレースしたら、夫の内面を深くトレースすることに自ずとなってしまい、とても精神的に苦労したことがあった、と手塚さんは以前話してくれました。なるほど、この「トレース」の試みは、映像を媒介にした「テクノロジー×ダンス」であるのみならず、トレースを通して、深くその対象を知ることになるという意味で「ダンス×X(社会的課題)」の要素も含まれたものといえるでしょう。この手塚さんの「トレース」は、近年、川口隆夫さんが大野一雄を取り上げ、向雲太郎さんが土方巽を取り上げてやはり、それぞれの方法で「トレース」を試みていることと、目下のところ、それらの関連性はまだしっかりと指摘されていません。しかし、それぞれの違いを指摘しつつ、三者に通底する意義を浮き彫りにしながら、彼ら三人の活動を明確にしておくことは、日本のダンス史にとって非常に重要なことであろうと思います。今回BONUSは、そうした視点から手塚さんの「トレース」に注目していきます。
もう一つは、ロイ・フラー再現プロジェクトです。これは日本女子体育大学の教員でコンテンポラリー・ダンスの振付かでもある高野美和子さん、ロイ・フラー風の衣装を自作し、彼女流の再現を先駆的に試みている柊アリスさんと昨年から始めているプロジェクトで、今年は、日本女子大学の宮晶子さん、今年春に東京芸術大学大学院を修了した木村絵理子さんたちにも加わってもらい、実現させようとしています。ロイ・フラーは、白い衣装にカラフルな照明を当てたという点からすれば、間違いなく「テクノロジー×ダンス」の先駆者です。彼女がどんな思いからあのダンスを生み出したのか、また今日の私たちが彼女のアイディアを発展させるとしたら、どんなことができるのかを探求してみます。
BONUSは作品づくりというよりはアイディアを発明・開発する場です。
BONUSはみなさんとともにカオスのなかへと飛び込んでゆきます。
BONUSは安易な結論を性急に求めず、失敗を恐れず、面白いアイディアをシェアする場です。
助成 アーツカウンシル東京、日本女子大学総合研究所
協力 日本パフォーマンス/アート研究所